― SHO / HOO 合成を前提に考える正しい処理順 ―
ナローバンド撮影を始めたとき、多くの人が一度はこう考えます。
「RGBでやってきた処理を、そのままナローバンドにも当てはめればいいのでは?」
しかし実際にやってみると、
- 色が破綻する
- 構造が消える
- ノイズだけが強調される
といった結果になりがちです。
これは 処理が間違っているのではなく、考え方が RGB のままだから です。
この記事では、
なぜナローバンドは RGB と同じ処理では破綻するのか、
そして SHO / HOO 合成を前提とした正しい処理の考え方 を整理します。
なぜナローバンドは RGB と同じ処理では破綻するのか
RGB は「連続光」を前提にした画像
RGB画像は、
- 恒星の連続スペクトル
- 反射星雲
- ダストの散乱光
といった 連続光が主成分 です。
そのため RGB 処理では、
- 色バランス調整
- 背景補正
- 彩度調整
を 全チャンネル一律 にかけても破綻しにくくなっています。
ナローバンドは「輝線+連続光」の混合体
一方、ナローバンド(SII / Ha / OIII)は、
輝線成分 + フィルター帯域内に入る連続光
の合成です。
つまり、
- Ha画像は「Ha輝線だけ」ではない
- OIII画像も「OIIIだけ」ではない
- SII画像も同様に連続光を含む
という前提を理解していないと、
「RGBと同じように処理したら破綻する」
という現象が起きます。
輝線ごとに「やるべき処理」と「やってはいけない処理」
ここがナローバンド処理の核心です。
すべての輝線に同じ処理をする必要はありません。
Ha(Hα)
特徴
- 信号が強い
- 構造情報が豊富
- 連続光の影響も比較的大きい
やるべき処理
- Continuum Subtraction(有効)
- コントラスト調整
- 構造強調
やってはいけない処理
- 過度なノイズ除去(構造が痩せる)

OIII
特徴
- 星・背景への寄与が大きい
- 引きすぎると暗部が崩れやすい
やるべき処理
- Continuum Subtraction(非常に有効)
- 星の影響を抑えた状態での処理
やってはいけない処理
- 星無し状態での Continuum Subtraction
→ スケールが破綻しやすい

SII
特徴
- 信号が弱い
- 構造は外縁に出やすい
- 連続光依存が比較的大きい
やるべき処理
- 必要に応じて「引かない」「弱く引く」
- 構造の保持を優先
やってはいけない処理
- Ha/OIIIと同じ強度で Continuum Subtraction
→ 情報が痩せ、ノイズだけ残る

SHO / HOO 合成を前提にした処理順の考え方
ナローバンド処理は、
単体で完成させるものではなく、合成前提 で考える必要があります。
基本思想
- 単体で完璧にしようとしない
- 合成後に「役割を果たすか」で判断する
私が推す処理順
- 各画像の位置補正(StarAlignment)
- 背景補正(MGC)
- 色補正(SPCC)
- (デュアルバンドの場合)分離処理(DBXtract)
- 軽めのノイズ処理(NoiseXTerminator)
- 星を極小にする(BlurXTerminator)
- Continuum Subtraction(星あり)
- Ha / OIII を中心に
- SIIは状況次第
- 星消し
- ストレッチ
- Channel Combination(SHO / HOO)
- 色調整(Narrowband Normalization 等)
- 最終的な星処理(RGBから星画像だけ持ってくる)
Continuum Subtraction をどこに組み込むのが正しいのか
結論は明確です。
Continuum Subtraction は「輝線分離後」「ストレッチ前」「星あり」で行う
なぜ星が必要なのか
Continuum Subtraction は本質的に、
ナローバンド画像 − k × 連続光
という スケール合わせの引き算 です。
この k(係数)を決める基準 が、
- 恒星(連続光の代表)
- 背景統計
だからです。
星を完全に消してしまうと、
- スケールが不安定になる
- 星雲構造を連続光と誤認して引いてしまう
という破綻が起きます。
実運用での最適解
- 星は残す
- ただし BlurXTerminator などで星の影響を小さくする
- その状態で Continuum Subtraction を行う
これが、
理論と実画像の両方で破綻しにくい折衷案 です。
まとめ

- ナローバンドは RGB と同じ処理思想では破綻する
- 各輝線には「役割」と「適切な処理」がある
- SHO / HOO は合成前提で考える
- Continuum Subtraction は万能ではない
- 「どこに使うか」「どこで使わないか」を判断することが重要
ナローバンド処理は、
「正解の手順」をなぞるものではなく、
物理を理解した上で取捨選択する作業 です。
今回の一連の検証は、
その判断を裏付けるための、とても良いプロセスでした。
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