星降る場所を求めて

WBPP

PixInsight WBPP メイン画面解説(v2.8.9)

本記事は、これまで私が収集してきた情報をもとに、
PixInsight の WBPP(Weighted Batch Preprocessing)について解説ページとしてまとめたものです。

内容の内訳は、PixInsight公式ドキュメントがおよそ4割、
公式フォーラムでの開発者・公式回答が約4割、
そして実際の運用を通して得た経験や考え方が約2割となっています。

皆さんの前処理の理解やトラブル回避に、少しでもお役に立てば幸いです。
どうぞごゆっくりご覧ください。

― 前処理の全体像をつかむためのガイド ―

PixInsight の WBPP(WeightedBatchPreProcessing) は、
天体写真の画像処理において、最初に行う「前処理」を一括で管理・実行するためのスクリプトです。

非常に便利な反面、

  • 項目が多くて難しそう
  • 何をどこまで理解すればいいのかわからない

と感じて、最初の段階で戸惑ってしまう方も多いと思います。

このページでは、WBPPのメイン画面を見ながら、全体の構造と考え方を整理します。

細かい設定値や使い分けには踏み込まず、
まずは
👉 「WBPPの画面には何があり、どこで何を決めているのか」
を理解することを目的としています。

WBPPとは何をするツールか(概要)

WBPPは公式に次のように説明されています。

A script to preprocess, register, and integrate images.

WBPPは、

  • キャリブレーション(前処理)
  • 位置合わせ(Registration)
  • 画像統合(Integration)

という、天体画像処理の最初から最後までを一連の流れとしてまとめて実行するスクリプトです。

ただし、「すべてを自動で判断してくれるツール」ではありません。

WBPPは、ユーザーが決めた前提条件に従って、正しい順序で処理を進めてくれるツールという位置づけになります。

このメインページでは、
WBPPの画面を 番号順に区切って概要だけを紹介 しています。

  • 「この項目は何を担当しているのか」
  • 「WBPP全体の中で、どんな役割なのか」

1 WBPPの概要と考え方
2 Presets
3 Grouping Keywords
4 Global Options
5 Registration Reference Image
6 Output Directory
7 Control Bar
8 Bias
9 Darks
10 Flats
11 Lights
11-1 Image Registration
11-2 Local Normalization
11-3 Image Integration
11-4 Image Solver
12 Calibration
13 Post-Calibration
14 Pipeline

1 WBPPの概要表示エリア

画面右上には、WBPPが何をするスクリプトなのかが簡潔に書かれています。

WBPPは、複数の画像処理工程を「まとめて実行する」のではなく、
正しい処理順と関係性を管理する司令塔 のような存在です。

ここでは、WBPPの思想や役割を理解することが目的となります。

▶ 詳しい解説:WBPPの概要と考え方

2 Presets

Presets は、WBPP全体の処理方針をあらかじめ用意された設定セットから選択する機能です。

処理速度重視・品質重視などの方向性を素早く反映できますが、
プリセットはあくまで「初期値」です。

最終的な画質は、このあと紹介する各項目の理解と調整に委ねられます。

▶ 詳しい解説:Presets

3 Grouping Keywords

Grouping Keywords は、WBPPの自動化を支える重要な仕組みです。

FITSヘッダやファイル名をもとに、

  • フィルター
  • 露光時間
  • ビニング

などを判別し、フレームを自動的に正しいグループへ分類します。

WBPPを快適に使うためには、撮影時のファイル管理が非常に重要 になります。

▶ 詳しい解説:Grouping Keywords

4 Global Options

Global Options では、WBPP全体の挙動に関わる設定を行います。

  • マスターファイルの扱い
  • 出力形式や命名規則
  • リジェクションマップの保存

など、処理全体のルールを決める項目 です。

通常はデフォルト設定で問題ありませんが、トラブルシュート時には重要になります。

▶ 詳しい解説:Global Options

5 Registration Reference Image

位置合わせ(Registration)を行う際の基準となる1枚の画像 を指定する項目です。

auto にしておくことで、WBPPが自動的に適切な画像を選択します。

条件によっては手動指定が有効な場合もあります。

▶ 詳しい解説:基準画像の選び方

6 Output Directory

WBPPで生成されるすべての処理結果は、ここで指定したフォルダに出力されます。

処理工程ごとにサブフォルダが自動生成されるため、後から結果を追いやすい構成になります。

▶ 詳しい解説:WBPPの出力フォルダ構成

7 Control Bar

画面下部には、WBPP操作の基本となるボタンが並びます。

  • 各種フレームの追加
  • Diagnostics(事前チェック)
  • Run(実行)

特に Diagnostics は、
設定ミスを防ぐために非常に重要な機能です。

▶ 詳しい解説:Control Bar

8〜14 上部タブ群(処理工程ごとの設定)

WBPP上部に並ぶタブは、
内部で処理が進む順番 をそのまま表しています。

8 Bias

9 Darks

10 Flats

11 Lights
11-1 Image Registration
11-2 Local Normalization
11-3 Image Integration
11-4 Image Solver

12 Calibration

13 Post-Calibration

14 Pipeline

これらはWBPP解説の中核となるため、
タブごとに1ページずつ詳しく解説 していきます。

用語意味・解説
WBPP(WeightedBatchPreProcessing)PixInsightに付属する前処理用スクリプト。キャリブレーション・位置合わせ・画像統合を、一連の流れとしてまとめて実行できる。自動処理ツールというより、処理の流れと関係性を整理するためのツール。
Preprocess(前処理)撮影データからカメラ由来のノイズや光学系のムラを取り除き、画像を揃えるための準備工程。
Register / Registration(位置合わせ)複数枚の画像を星の位置を基準に重ね合わせる処理。追尾誤差や撮影中のズレを補正する。
Integrate / Integration(画像統合)位置合わせされた複数枚の画像を重ね、S/N比を向上させた1枚の画像を生成する処理。
Bias(バイアス)露光時間ほぼゼロで撮影したフレーム。カメラ固有の読み出しノイズや電子オフセットを記録しており、キャリブレーションの土台となる。
Dark(ダーク)Lightと同じ露光時間・温度で撮影した暗画像。熱ノイズや固定パターンノイズを補正するために使用する。Flat Dark(フラットダーク) は、Flatと同じ露光時間・ゲイン・温度で撮影したダークで、Flat補正専用に使われる。Biasの代わりとして使われることが多く、近年はこちらを推奨されるケースも多い。
Flat(フラット)ケラレやゴミ、感度ムラなど光学系の影響を補正するための画像。フィルターごとに撮影する必要がある。
Light(ライト)実際に天体を撮影した本番画像。WBPPでは、このLightを最終的に統合することが目的となる。
Master(マスター)複数枚のBias・Dark・Flat・Lightを統合して作成された代表となる1枚の画像。例:Master Bias、Master Dark、Master Flat。
Calibration(キャリブレーション)Bias・Dark・Flat(またはFlat Dark)を使ってLightを補正する処理全般。WBPPではこの関係性を自動で管理・実行する。
Subframe(サブフレーム)撮影した個々の1枚1枚の画像のこと。Lightの中でも、品質評価の対象となる単位。
Subframe Weighting(サブフレーム重み付け)各サブフレームの品質(FWHMやSNRなど)を評価し、統合時の影響度を調整する仕組み。
Grouping Keywords(グルーピングキーワード)FITSヘッダやファイル名をもとに、フレームを自動的に正しいグループへ分類する仕組み。WBPPの自動化を支える重要な機能。
Registration Reference Image(基準画像)位置合わせ(Registration)を行う際の基準となる1枚の画像。auto を指定するとWBPPが自動選択する。
Output Directory(出力ディレクトリ)WBPPの処理結果が保存されるフォルダ。calibrated / registered / master などのサブフォルダが自動生成される。
Diagnostics(診断)WBPP実行前に、ファイル不足や設定の矛盾、グループの不整合などをチェックしてくれる機能。Run前に実行するのがおすすめ。
Pipeline(パイプライン)WBPP内部で処理される一連の流れそのもの。Bias → Dark → Flat → Light → Registration → Integration の順で進む。

まとめ:WBPPは「理解すると怖くなくなる」

WBPPは最初こそ難しく見えますが、

  • どこで何を決めているのか
  • 処理はどんな順番で進むのか

を理解するだけで、設定画面の見え方が大きく変わってきます。

このメインページは、迷ったときに何度でも戻ってこられる「地図」 として使ってください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました